このたび糸状菌遺伝子研究会の第5代目の会長を仰せつかりました東北大学の五味でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 糸状菌遺伝子研究会は、1990年に東京大学名誉教授で醸造資源研究所長を務めておられた田村學造先生がわが国の糸状菌に関する遺伝子レベルにおける研究の発展を願って元国税庁醸造試験所長であった秋山裕一先生とともに設立した研究会です。私は醸造試験所で麴菌の宿主ベクター系の開発や酵素遺伝子のクローニングと構造解析を行っていたこともありますが、設立当初から醸造研究所を経て東北大学に移るまで事務局の一員として研究会の運営のお手伝いをしていました。東北大学に移ってからは運営委員として運営に直接関わってきていますので、本研究会には30余年にわたってお世話になっていることになります。思い起こせば、第1回目の研究会の例会では東京大学名誉教授の別府先生の基調講演に続いて、私が麴菌の遺伝子組換え技術について講演させていただけたのは名誉なことと思っています。また、その時に一緒に講演していただいた東京大学の堀内先生が現在の糸状菌分子生物学研究会の会長を務められていることを考えると、時代の流れも感じるところです。今回の会長就任にあたって、これまで長年糸状菌遺伝子研究会にお世話になってきたことの感謝も込めて、微力ながら本研究会の発展のお役に立ちたいと思っています。
 思い出話はさておき、糸状菌遺伝子研究会は30年を越える歴史を持っていますが、研究会の目的は研究会会則に書かれている通り、「糸状菌遺伝子に関する研究を志すものの情報交換及び研究の発展」です。その目的を達成するために、現在は毎年6月中旬に開催しております研究会(例会)における情報交換や研究者間の交流に加えて、研究会賞(奨励賞・技術賞)の授与と糸状菌遺伝子関連の研究活動支援(主として糸状菌分子生物学コンファレンスの後援)を行うことにより、糸状菌研究の発展に貢献することができてきたものと考えています。研究会設立当時から考えますと、糸状菌遺伝子に関わる研究は飛躍的な進展を見せており、麴菌をはじめとする糸状菌のゲノム解析後のポストゲノム時代においてはオミクス解析やゲノム編集技術の活用により、糸状菌が示す複雑な生命現象の解明や産業上の課題の解決が図られてきました。しかし、糸状菌は多核多細胞であることに加えて種の多様性も大きく未解明の現象はまだ数多く残されていると思います。わが国は気候的に糸状菌が繁殖しやすいこともありますが、麴菌が関わる醸造産業を例に挙げるまでもなく糸状菌に関係する技術者や研究者の割合は世界一ではないかと思います。そのような点からもわが国の糸状菌研究のさらなる発展は世界からも求められているところです。糸状菌遺伝子研究会はこのような糸状菌に関わる研究の発展に今後も少しでも貢献できればと願っておりますが、そのためにもこれまでに加えて新たな活動も必要なのではないかとも考えています。研究会の運営や活動に関しては運営委員の方々のご協力を仰ぐことになりますが、皆様方からもご支援、ご協力いただけますよう心からお願い申し上げますとともに、忌憚のないご意見やご要望等をいただければありがたく存じます。



2022年6月17日   
会長  五 味 勝 也   
東北大学教授
会長就任にあたって