糸状菌遺伝子研究会は1990年に田村學造先生の麴菌研究に対する深い思い入れにより設立された研究会です。以来、毎年、1~2回の研究発表会が開催され、我が国の糸状菌研究の発展に大きな貢献を果たしてきました。
  田村先生は、1956年に麴菌の培養濾液から火落菌の必須生育因子として新規物質を発見し火落酸(Hiotic acid)と命名されました。火落酸は、コレステロールなど様々なイソプレノイド生合成中間体の鍵物質です。ただ残念なことは、同年、米国のFolkersらが独立に、乳酸菌の生育因子として同一物を発見しメバロン酸と命名、発表されたため、世界の生化学の教科書ではメバロン酸という名前が一般的に使われていることです。
 田村先生の研究に対する信念、執念は際立っており、大腸菌、酵母などの研究に比べ、遅れていた糸状菌の研究を活性化する必要性を感じられていました。このような背景のもと、糸状菌の遺伝子レベルでの研究成果を発表するとともに情報交換の場を設けるために本研究会が設立されました。 設立以来、糸状菌遺伝子研究会は次のような大きな足跡を残すことができました。
 2000年10月には、東京大学弥生講堂で国際シンポジウム「麴菌の分子生物学」が開催されました。この成功を受けて、糸状菌研究者の研究発表の場として、翌2001年から糸状菌分子生物学コンファレンスが開始されました。本コンファレンスは、麴菌の他、植物病原菌、木材腐朽菌などのカビ研究者が一堂に会し、毎年300人近くの参加者のもと、現在まで活発な研究発表の場となっています。2005年には、本研究会のメンバーが中心となって進められた麴菌ゲノム解析プロジェクトが完了し、Natureにその成果が発表されました。2006年6月には、麴菌ゲノムシンポジウム 「国菌としての麴菌、その故きを温ねて新しきを知る」が開催され多くの参加者のもと活発な発表、討議がなされました。さらに、2006年10月には、日本醸造学会で一島英治元会長の基調講演がなされ麴菌が「国菌」に認定されました。
 私は本研究会の設立から運営委員として関わってきており、自身の麴菌を含む糸状菌研究の遂行にあたり、本研究会には大変お世話になってきました。今後は、麴菌への恩返しという意味でも、本会のさらなる発展に微力ながら尽力させていただきたいと思っています。
 具体的には、1)糸状菌分子生物学コンファレンスへの支援等を通じて糸状菌研究の更なる活性化、2)糸状菌研究者間(産学官)の交流の場を一層充実させること、さらに、3)これらをもとに糸状菌研究成果の広報および成果の社会への還元、にも力を入れていきたいと思っています。 我が国は、サイエンスの分野では、予算規模においても、ノーベル賞受賞実績などからみても世界の中で中核を担っています。しかし、巨額の科学技術予算により行われている様々な研究を眺めてみると、真に我が国が推進すべき研究と必ずしも重なりあっていない分野も多く見受けられます。 カビを利用した発酵食品を多くもつアジアの中にある日本にとって、麴菌を含めた糸状菌の研究は、我が国が世界をリードすべき研究分野であることは間違いありません。10年、20年先の日本を考えたとき、世界から尊敬される国となっているためにも糸状菌研究のさらなる充実化は重要なことです。 糸状菌遺伝子研究会はいわゆるカビを中心にして、基礎から応用までの幅広い研究の支援を通して我が国のサイエンスとインダストリーの更なる発展に少しでも役立ちたいと考えています。多くの方々に本会の趣旨にご賛同頂き、ご支援、ご協力を賜りますようお願い致します。



2016年6月16日   
会長  北 本 勝 ひこ   
東京大学名誉教授、日本薬科大学特任教授
糸状菌遺伝子研究会へようこそ!