「飯村穰先生の逝去を悼む」


 本研究会の名誉会員 飯村穰先生が去る8月28日に78歳でご逝去されました。飯村先生は1995年から1997年まで国税庁醸造研究所(現 酒類総合研究所)に在籍されている期間に糸状菌遺伝子研究会の事務局の代表を務められ、その後山梨大学に転出されてからは運営委員として会の運営にあたられました。また、2008年より2011年までの3年間は運営委員長として会の円滑な運営に大変力を尽くされました。そのご功労に敬意を表して運営委員ならびに運営委員長退任後に名誉会員に推戴されました。

 飯村先生は、1985年に国税庁醸造試験所において麴菌の遺伝子組換えに関する研究に着手され、世界に先駆けて麴菌の形質転換に成功されました。私は同時期に先生とともに麴菌の遺伝子組換え技術開発に携わり、その後わが国をはじめ海外の研究者(その多くは二次代謝化合物の生合成に関わる研究者になりましたが)にも活用してもらうことになる宿主・ベクター系を開発することができましたが、その基本技術のほとんどは飯村先生が開発されたものでした。また、麴菌が生産する最も重要な酵素であるα-アミラーゼの遺伝子のクローニングやその発現制御機構の解析への道も開かれ、その当時に設立された醸造資源研究所との共同研究によってこれらの研究が発展することにつながりました。このように、飯村先生はわが国の麴菌の遺伝子工学研究のパイオニアと言って過言ではなく、先生がおられたお陰で本研究会も設立できたとも言えるのではないかと思います。
 飯村先生の麴菌の遺伝子組換えに関する研究は、後のわが国の糸状菌、特に麴菌の遺伝子研究の発展に大きな影響を与えただけでなく、海外の企業による麴菌の形質転換系の特許成立を阻止したという意味でも大きな意義があります。1986年3月の日本農芸化学会大会で先生がはじめて麴菌の形質転換について発表した事実により、そのすぐ後に出願された海外企業の特許の成立を阻むことができたため、わが国では特許による制限を受けることなく多くの研究者が麴菌の遺伝子組換え実験を行うことができることになったのです。

 麴菌(+酵母)に関する研究で飯村先生とご一緒した私にとって思い出は語り尽くせませんので、ここでは簡単ではありますが先生の麴菌の遺伝子研究に対するご貢献を紹介するにとどめ、厚く感謝申し上げますとともに、心から哀悼の意を表します。本当にありがとうございました。

糸状菌遺伝子研究会 会長 五味勝也



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